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2018年度シンポジウム

2022年6月1日更新

(詳細は『生活社会科学研究』25号参照)

2018年5月26日(土曜日)14時から、大学本館306室にて、生活社会科学研究会シンポジウムが開催されました。
2017年4月に赴任された豊福実紀先生(政治学・公共政策)が「所得税の配偶者控除と政治」について、また2018年に赴任された西村純子先生(家族関係論、社会福祉学、家族社会学)が「女性の就業と子育て―1990年代以降の変化」についてご講演をされました。
まず豊福先生のご講演です。非課税限度額である「103万円の壁」は、女性のパート就業の壁として多くの研究にとりあげられています。しかしそれがどのようにつくられ、さらに何度も議論されながらも維持されてきたのかについてのお話しです。この制度は1960年代の創設当時は農業・自営業者を重要な受益主体としてつくられたこと、高度成長期には、自民党が給与所得者むけに給与所得控除を拡充したことによって非課税限度額があがり、やがて正社員の平均年収の25%くらいまで、配偶者の給与収入が認められるようになったこと。こうした変化の背景には自民党の選挙インセンティブ、特に中選挙区制度が大きいものでした。しかしパート課税が話題となったのは、1980年代がはじめてでありました。その後、バブル崩壊後には、増税、女性の就業の両面からこの制度の改正についての議論がありましたが、結局、受益者の反発を配慮し2017年の改革においても配偶者控除が継続されたことが示されました。つまり利益分配の観点から政治的に維持されてきたのだという興味深い報告でした。
西村先生のご報告は、1990年代以降の子どもを育てる女性の働き方にどのような変化があったのか、またそれにともなって家族はどのように変化したのか/しなかったのかについて、複数のご著書に基づくものでした。1990年代以降、第1子出産後の女性の就業率があがってきていること、その際に、親族(とりわけ女性自身の母親)からのサポートがどれだけ得られるかが、近年になるほど、より大きな影響をもつようになっているという興味深いご指摘でした。1990年代以降、保育園の拡充が図られ、保育の社会化の機運が高まってきたにもかかわらず、親族の支援がとても重要になっているような今日の働き方をどう考えるべきなのだろうかという疑問を提示されました。また地域における多世代の子どものかかわり、そうした地域社会の在り方、そういったことも今後の研究課題としていきたいという、意欲的な今後の研究の方向性についても述べられました。西村先生がなぜこのような研究に関心を持たれたのか、会場から質問が出ました。これに対して、ご自分が大学を卒業するころに、民間企業に勤務しながら子どもを持てるという見通しが立たなかった、これがこの研究に自分を向かわせた理由なのです、というご回答は多くの共感を得たのではないでしょうか。
素晴らしいお2人の先生方を生活社会科学講座にお迎えできて、本当に喜ばしいことだと、生活社会教員学生一同、とても嬉しい気持ちで、ご講演を伺いました。
また16時より大学本館103室にて花経会のご厚意でおいしいお菓子をいただき茶話会が開催されました。
(永瀬伸子 記)

学生の感想

<豊福先生>
「配偶者控除が時代おくれというわけではなく、自民党の選挙インセンティブに基づく利益配分の結果、変化しつつ持続されてきたという見方はこれまでになく新しいと感じました」/「農業・自営業者向けの減税であったことに驚きました。政治的にみても農業・自営業者の支持を得ることはこの時代に大事だったとわかりました。」/「女性が働くようになっているので時代遅れな制度と思っていたが様々な変容を経て残っているので時代遅れではないというお話しが興味深かった」/「今回の改正でますます廃止が難しくなったとわかりました。」/「専業主婦のための制度だと思っていたので、農・自営業者から共働きにニーズが移ったという見方が正しいということをはじめて知った」/「政治の選挙インセンティブに左右されて女性の選択肢が狭められてきたことを考えると非常に後進的な国のやり方ではないかと思った。女性就労の時代にいよいよ合っていない」/「他の先生方からの質問がとびかっている質疑応答の時間は興味深い内容ばかりで、1つの問題を政治、経済、社会学、法学から考えていく、まさしく社会科学を体現していると感じた」/「私は経済学の視点からこの問題を考えてきたが、政策を実現するのは政治です。政治学の視点から考えなければ解決されない問題であると強く思いました。」/「維持された理由がわかって面白かったです。でも選挙インセンティブを理由にしてしまうのはあまりにさみしい気がします」/「私自身アルバイトで稼いでいると103万円をこえないようにと親からしつこく言われます」/「私自身最近この103万円の壁になやんでいます」
<西村先生>
「私も将来的には子そだてをしてみたいと思います。仕事もしたいです。今回のお話しはそのような女性にはかなり興味深いものだったと思います」/「子育てをしながら仕事をできるのか、と考えたときにとても自信がないです」/「夫が多くの家事育児をするかしないかについて妻の働き方による負担感の差がないという結果は意外だと思いました」/「私の母もパートで働き始めたのですが、父は家事を手伝わないので母の負担が増える一方だと感じています」/「経済不況をどの時期に経験したかによってグラフが異なるのが面白いと思いました」/「地域社会のささえあいを言及されましたが、子どもに対する地域社会内での犯罪が問題視される中、地域社会のネットワークが弱まっているように感じるので、この役割は市場が担うようになるのではないかと感じました」/「女性のストレスに関する資料と就労・子育てをむすびつけるのははじめて見て、心理的な観点を女性の働きやすい環境づくりに入れるのは大事と感じた」/「若い人の方が出産後正社員として戻ってくるというのは面白いと思った」/「実母との同居・近居が負担感に影響するというのは、居住地が勤務地を制限しかねないという意味において女性のキャリア選択に不利なのではないかと思った」/「非正規女性は育児休業制度をつかいづらく退職せざるを得ない・・・女性のキャリア格差はどうやわらいでいくのか気になった」
<全体>
「自分の専門を深めていくことのおもしろさを改めて感じました。お2人ともとても楽しそうに語っている姿が印象的でした」 

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