ページの本文です。

2019年度シンポジウム

2022年6月1日更新

(詳細は『生活社会科学研究』26号参照)

2019年度生活社会科学研究会シンポジウムは、「家族研究のフロンティア―博士学位取得者による研究報告」と題して、博士の学位を取得して間もない若いお二人の研究者をお招きした講演会を開催しました。
岡村理恵さん(2018年3月に博士の学位を取得、お茶の水女子大学グローバルリーダーシップ研究所・特任講師)には「『スマホ育児』に関する社会学的考察の試み」というタイトルでご講演いただきました。情報通信技術の発達は、たとえばスマートフォンの普及にみられるように、わたしたちの暮らしを大きく変えています。岡村さんのご研究は、子育てにおけるICT(Information and Communication Technology)の利用が、母親の役割適応や生活充実感とどのような関連をもつのかを問うものでした。データ分析の結果をふまえて、子育てにおけるICT利用は、母親によるsupport seekingとしての側面をもつものの、現状では育児資源としては限界があること、役割適応や生活充実感に対して重要な意味をもつのは、父親の育児参加や祖父母のサポートであるという知見が紹介されました。
田嫄さん(2019年3月に博士の学位を取得、お茶の水女子大学みがかずば研究員)は、「仕事と家事・育児に見る中国家族の現在」というタイトルでご講演くださいました。田さんのご研究では「80後(バーリンホウ:1978年から1989年生まれ)」と呼ばれる世代の生殖家族に着目して、改革開放政策のなかで、中国の家族生活がどのような変貌をとげているのかに注目されています。詳細なインタビューの分析の結果、80後は常に保守的なジェンダー規範と男女平等のリベラルなジェンダー規範との絡み合いの中でライフスタイルの選択をおこなっていること、仕事と家事・育児の調整における葛藤が深刻化していること、80後女性の就労中断は「戦略的」であり、女性のジェンダー意識の「保守化」と同義ではないこと、などの興味深い知見が紹介されました。
お二人のご研究は、ICTの急速な発達、あるいは中国の急速な市場経済化という、今まさに進行している事態が、家族生活にどのようなインパクトをもつのかを問うもので、「家族研究のフロンティア」と呼ぶにふさわしいものでした。刺激的なお二人のお話を受けて、講演後には活発な質疑応答が行われました。
シンポジウム後は、花経会の共催による茶話会が開催されました。卒業生、現役の学生、教員も交えて、なごやかな交流の機会となりました。

学生の感想

「ICT利用による育児困難の度合いや生活充実感を知ることで、育児に悩む父親母親へのサポートの仕方・対策がしやすくなると思います。日本の親が心配するほど、他国に比べてスマホ使用が少ない結果にはとても驚きました」/「近年、スマホは財布よりも外出時に必要なものになりつつあり、生活必需品であると言っても過言ではないと感じています。そこで、むやみに子どもをスマホから引き離すのではなく、幼い頃から上手にデジタルコンテンツと付き合う方法を教えていく、一緒に学んでいくことがこれからは求められているのではないかと思いました」/「スマホ育児という言葉自体は耳にしたことがありましたが、実際には周りに子育て世代の知人がいないこともあって、具体的な中身を知らなかったので、お話を聴けてよかったです」/「スマートフォンの育児利用に対し、批判的な面が大きいように思っていたが、ゲームだけではなく、情報の取得、連絡手段など必ずしもマイナスでない面もあると気付きました」

「一人っ子政策」がもたらしたバーリンホウの存在と価値観が家族形成の変容に大きくかかわったのだとわかりました」/「70後と80後の比較からは、異なる点が多くあり面白いと思った。リベラルなジェンダー規範を定着させることと同時に、男性が育児をしやすくなるような環境を整備していくことが重要であることがわかった」/「女性の総労働時間が男性よりも長いことに驚きましたが、女性が二重役割を担っていることや男性の方が生産性が高いとみなされている点では日本と同じであり、やはりまだ女性の社会的地位の向上は発展の進む中国でも実現していないことを改めて理解しました」/「中国でも日本と同じような性別役割観があるということや、仕事と家事・育児に関しては、年代によって大きく違いがあることを初めて知りました」

文責:西村純子

  •  
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • facebook
  • x
  • instagram